未来的愛玩具2(13)

未来的愛玩具2

岸壁の3人の男と、横たわった女の影は長い時間動かなかった。

誰も言葉を発しようとしなかった。

最初に動いたのはこたろだった。

こたろはゆっくりとボロに近づいた。

ボロは依然うな垂れて泣いていた。

こたろは無言でボロの肩に自分の手を置いた。

「仕方ないやろ」

こたろの声は静かで、ボロを慰めるようだった。

ボロはうな垂れながら「すんまへん、こたろはんッ!」と大声で言った。

恭介が横たわったくみに近づき、膝まずいた。

後頭部の辺りを右手で探った。

カチッという音と共にくみの顔面がシールドのように開き、中から機械の基盤のようなものが現れた。

恭介はその一部を抜き取ってこたろとボロの所までゆっくりと歩いてきた。

恭介は右手の掌を開いてICチップのようなパーツを二人に差し出した。

こたろがそれを左手で摘み上げてボロに手渡した。

「もう1回やろう」

こたろはボロに言った。

「でも、今回のテストで成功することを前提に、こたろはんは大量に仮注文まで取ってくれはったのに」

ボロはまだ泣き声だった。

「そんなことくらい俺が上手く処理するわ」

いつもの調子でこたろが言った。

黙っていた恭介がおもむろに二人に言った。

「これって失敗やったんやろか?」と。

「完全な失敗どす。何があってもワテを愛するようにプログラムしてましたんや、それなのに・・・」

激怒するかのようにボロが言った。

「でもさ、ロボットが自分の意思で選択をしたというのなら、それこそ人口知能とちがうやろか」

恭介が二人に言った。

「そうかッ!」

ボロは何かに打たれたように叫んだ。

「いや、恭介さん、理論ではそうかもしれんけどプログラム通りでないと、これ商売になりませんで」

とこたろが首を振りながら言った。

「自分を愛してくれるというふれ込みやのに、途中から他の男に移り気を起こしたら即クレームでっせ。生身の女となんら変わりない」

当たり前じゃないか、という口ぶりでこたろが続けた。

「でもさ、逆にその方が人間味があるということも・・・」

恭介は商売よりも研究を突き詰めていくタイプなのは、以前バンド仲間であったこたろも承知していたがやはりここはビジネス優先ではないか、ということをこたろは強調した。

記憶ベースに使ったくみの移り気な記憶が問題だったのではないか、と深夜の暗闇で同じ会社の開発チームの三人は激論になった。

「もう、こんな時間やし今日はいつものところで飲みませんか?」といつも和を取り持つボロが恭介とこたろに言った。

酒好きな2人は、「そやな」と簡単に同意した。

これもいつものことだった。

「しかし、人間であろうがアンドロイドであろうが、女というタイプはいつも男に難題を与えてくれるなあ」

とこたろが言うと、これにはボロも恭介も大きく頷いて、くみの筐体を三人で車のトランクまで運んでいった。

おわり

「未来的愛玩具2」
Story by ushi

➡はじめから読む

ピックアップ記事

関連記事一覧