死んでもアイラブユー
恋人同士の幸太郎と園子は、ドライブ中口げんかが元で大事故を起こしてしまう。園子は重体ながらも助かったものの幸太郎は即死を遂げる。霊となった幸太郎を天国から迎えに来たのは、1年前に死んだ二人の親友の四朗だった・・・
キャスト
亀山 幸太郎
園子の恋人。のんびりした性格だが友達思い。
律儀。コミュニケーションが下手なので誤解を招じやすい。
荒井 園子
しっかり者だが、根は純情で素直。
幸太郎の煮え切らない交際振りにイライラしている。
安楽 四郎
生前幸太郎と同様園子を恋していた。
性格は幸太郎と反対でリーダーシップ型。幸太郎の親友。
地縛霊
近所のおもろいオヤジ風。
1 走る車・車内
S E カーステレオの音楽がプツリと切れる。
園子 :(ちょっとイラ立った様に)あなたってどうしていつもそう煮え切らないの。
幸太郎 :なにが?
園子 :なにがって、私達付合ってどれくらいか知ってる?
幸太郎 :大学の時からだから、えーと・・・
園子 :それは知り合った時からでしょ。ちゃんと恋人として付合いだしてから。
幸太郎 :えーと、それは・・・
園子 :じゃ私の歳は?
幸太郎 :えーと、にじゅう・・・ご。
園子 :六になったの、先月で。あなた居なかったわね、私の誕生日。
幸太郎 :あれは出張で・・・
園子 :電話くらい、しろよな。
幸太郎 :ごめん。
園子 :あのね、適齢期の女の子と付合ってて1年もすれば、ふつう結婚のケの字くらい言わない?
幸太郎 :そりゃあ・・・
園子 :結婚しろって、脅してんじゃないのよ。それともただの遊びで付合ってるわけ?
幸太郎 :(あわてて)そんなことない。絶対ない。
園子 :だったら・・・(溜息)もういいわ。もういい。
幸太郎 :そんな風に言わないでくれよ園子。
園子 :あーあ、あの人が生きててくれたらなあ。
幸太郎 :四郎のことか?
園子 :そうよ。彼も私のこと好きだって言ってくれた。でも交通事故で亡くなってもう1年。
幸太郎 :11ヵ月と13日。
園子 :どうして死んだ人のことをよく覚えて、私のことは歳さえ覚えていないの?
幸太郎 :いやそんなつもりで言ったんじゃないんだ。ただ四郎の喪が明けたら・・・
園子 :もういいわ。私に興味がないのが判ったから。降ろして。
幸太郎 :なにを言うんだい園子。
園子 :もう幸太郎とは別れるわ、今日で判ったから。だからここで降ろしてちょうだい。
幸太郎 :無茶するなよ、ここは高速道路だぞ!おいハンドルから手を離せよ!
園子 :いいから降ろして!
幸太郎 :よせ、危ない。あッ!!!
園子 :キャーーーッ!!!
S E 車の激しいクラッシュ音。救急車のサイレン音
2 事故現場付近
幸太郎 :凄い事故だなあ。
四郎 :大型トレーラーと正面衝突か。見ろよ運転手が運び出されてる。どうやら即死ってとこだな。
幸太郎 :可哀相に・・・待てよ、(驚いて)あれは俺じゃないか!
四郎 :そうらしいなあ。
幸太郎 :そうだ、俺はたった今あの車を運転してたんだ。じゃここにいる俺は?・・・これは一体どういうことなんだ!
3 雲の階段
S E 異空間の音
幸太郎 :そうだ、俺は車を運転していたんだ。あの事故は俺だったんだ。
四郎 :そうだよ。おまえは死んだんだ。
幸太郎 :(ガッカリと)そうか。俺は死んだのか・・・ところで君は?
四郎 :相変わらずのんびりした奴だなおまえは。俺だよ。
幸太郎 :・・・四郎、四郎か?
四郎 :そうだよ。おまえを迎えに来てやったぞ。
幸太郎 :そうか、四郎か。久しぶりだな、元気だったかい?
四郎 :お陰さんで、と言いたいところだけどもう死んでるから。
幸太郎 :そうだったなよな。その節はご愁傷樣で・・・でもなんかマヌケな会話だな、死んだ本人に再会してご愁傷樣なんて。
四郎 :(笑って)おまえらしくっていいや。まだ死んで間もないから無理はない。じき慣れるから心配するな。さあ、早く上まで登って行こう。
4 雲の上
四郎 :さあ着いたぞ。しばらくここで順番を待つんだ。
幸太郎 :ここはどこだい?
四郎 :精霊界といって霊界の入口、まあ待合所といったところだ。
幸太郎 :たくさんの人じゃなかった、霊がいるなあ。
四郎 :死んだ人はまずここへ来るんだ。生きている時に一番親しかった霊に連れられて。そして霊界に入るための手続きをここでするんだ。
幸太郎 :あの人、あの派手なおばさん!
四郎 :野村沙知代さんだ。先ほど来たそうだ。
幸太郎 :ふーん、そうか。あの人!
四郎 :星野監督・・・
幸太郎 :ほんとだ!
四郎 :ここは芸能記者なんかいないから、ホッとしていることだろうな。
幸太郎 :親父が星野監督のファンだったから、サイン貰って・・・ちょっと待ってよ・・・
四郎 :どうしたんだ?
幸太郎 :園子、園子はどうしたんだ?慣れない世界に突然来たものだからうっかり忘れてた。彼女もここへ来てるのか?
四郎 :いや、彼女は助かった。と言うよりおまえが助けたんだ。
幸太郎 :俺が助けた?
四郎 :そうだ。おまえはうっかり者だからついシートベルトを締めるのを忘れてた。それが幸いしてぶつかる瞬間身を呈して園子を守ったんだ。おまえの体がクッション代わりになってた。
幸太郎 :そうか、よかった。
四郎 :でも意識不明の重体で、今は生と死の間にいる。
幸太郎 :もう会えないのか?
四郎 :そんなことはないけど、時間がかかる。・・・おい、幸太郎どこへ行くんだ?
幸太郎 :ちょっと彼女に会って来る。
四郎 :バカをいうなよ。手続きしなくちゃ霊界に入れなくなるぞ。
幸太郎 :どうしても彼女に話しておきたいことがあるんだよ。
四郎 :やめろ、彼女の霊は今すごく不安定な状態なんだゾ。
幸太郎 :そうしたのは俺の責任なんだ。だから彼女に俺の気持ちを伝えるまで死んでも死に切れないよ。
四郎 :相変わらずだな。わかったよ。
幸太郎 :ありがとう四郎。この恩は一生忘れない。
四郎 :もうおまえの一生は終わってる。
幸太郎 :ああそうか、またマヌケたことを言ってしまったな。
四郎 :でもこれだけは守れよ。おまえはもうすでに死んでるのだからあっちの世界にはそう長くは居られない。居ると浮遊霊になっちまうゾ。それと園子の霊を無理に連れて来ようとするな。
幸太郎 :わかった。すぐ戻ってくるから。
四郎 :おい、幸太郎・・・もう行っちまいやがって。相変わらず困った奴だ。
5 下界
幸太郎 :まいったな、園子が収容された病院がわからないよ。人に尋ねようにも幽霊になった俺の声は通じないし。幽霊なら瞬間移動のような便利な機能があるはずなんだけど、なったばかりだからよく判らないし・・・困ったな。
地縛霊 :なにか探し物かね?
幸太郎 :え、あなた僕が見えるのですか?
地縛霊 :おまえさん、昨日の事故で来た新入りだろ、ヒヒヒ。
幸太郎 :そうです。あなたは?
地縛霊 :地縛霊。テロリストってわけじゃないぞ。(笑う)
幸太郎 :知ってます。それじゃ土地の人ですね、よかった。
地縛霊 :フン、ジョークの判らん奴だ。
幸太郎 :僕と一緒にいた女性、どこの病院へ収容されたかご存知ありませんか。
地縛霊 :ああ、藤野病院にいる。あそこの医院長虫がすかねえ、いつか取りついてやろうと思ってたところだ。どうだ、手伝わんか?
幸太郎 :ありがとうございます。感謝します。
地縛霊 :おい、待て新入り。なにが感謝だ。どこの世界に感謝される地縛霊がいるってんだ、クソッ!
6 藤野病院
幸太郎 :荒井園子、荒井園子・・・面会謝絶、荒井園子。あったここだ。ごめんください・・・そうか、ノックは要らないのか。それじゃちょっと失礼します。
S E ドアをすり抜ける音
幸太郎 :こりゃひどい・・・園子、ごめんよこんなひどい怪我させちゃって・・・なんて謝ったらいいか・・・園子、園子(塢咽)あ、先生が入ってきた。先生・・・あー、通り抜けちゃった。くそッ、なんて不便なんだ。
S E 肉体から霊魂が離れる音
園子 :私を呼んだのは誰?
幸太郎 :園子!
園子 :幸太郎!?
幸太郎 :気がついてくれたんだね。
園子 :どうしたの。何があったの?
幸太郎 :事故が起きたんだ。
園子 :そうだわ、車に乗ってて・・・無事だったの私達?
幸太郎 :いや僕は死んだんだ。
園子 :じゃ私も?
幸太郎 :園子は死んじゃいない。あそこにいる。
園子 :このベッドにいるのが私・・・一体どうなってるの?
幸太郎 :君は今生死の間を彷徨っている。でも大丈夫だよきっと助かるから。
園子 :でも助かればもう幸太郎と会えないの?
幸太郎 :たぶん。
園子 :嫌よ。私も連れてって。
幸太郎 :園子・・・
園子 :元はと言えば私の無茶が原因で起きた事故なのに、私だけが助かるなんて・・・
幸太郎 :でも勝手に君をあの世に連れてきちゃいけないって言われてるんだ。
園子 :誰に?
幸太郎 :四郎に。
園子 :四郎もいるの!だったらなおさら連れてってよ!みんなに死なれて一人で生きるのなんて嫌よ。
幸太郎 :そうだよな・・・
四郎 :ダメダメ。やっぱり俺の言い付け守らなかったな、幸太郎。
幸太郎 :四郎!
7 藤野病院
園子 :四郎、1年前に死んだはずの。
四郎 :ああそうだよ。久しぶりだな園子。
園子 :会いたかったのよ。突然事故で死んじゃうんだもの。
四郎 :少し場所を替えよう。2人とも俺の手を取って。そうそう、じゃ行くよ。
S E 瞬間移動の音
8 海岸
S E 波の音
園子 :うわあ、懐かしい場所。学生時代四郎の車でよく3人でここに来たわよね。
幸太郎 :夏の夜、よく花火なんかした。
四郎 :ああ、あの頃よく3人で遊んだものだ。
園子 :あの頃が一番楽しかった。
四郎 :でも大学を卒業して3人の関係は微妙に変わっていった・・・なぜなら園子は女で俺と幸太郎は男。そして俺達2人は共に園子が好きだった。
幸太郎 :うん、誰も何も言わなかったけど判っていた。そのことはみんな避けていたから。
四郎 :言えば仲のいい関係が崩れるのが判っていた。園子が1度言ったよな、私が男だったらいいのにって。
園子 :私もすごく悩んだ。
四郎 :判ってる。みんな判ってるからこそ、辛かった・・・でも最終的に園子は幸太郎を選んだ。
園子 :ごめんなさい、でも私・・・
四郎 :いや、俺は園子を責めてるんじゃないんだ・・・俺はそのことを知った。ショックだった。いくら親友といっても気軽に「よかったな」って言って、これまで通り付合えなかった。
幸太郎 :四郎・・・
四郎 :俺は2人の前から姿を消した・・・
園子 :とても悲しかったわ。
四郎 :その頃俺はまだ人間ができてなかったのさ。でも1年たって気持ちがふっきれたような気がしたから幸太郎に会いに行こうとした。はやる気持ちから俺はあの事故を起こしたんだ。
幸太郎 :そうだったのか。
四郎 :俺より苦しんだのは幸太郎だ。それも判っていた。悪かったな幸太郎。
幸太郎 :あやまるなよ、そんな・・・
四郎 :そしておまえは俺が死んで1年喪が明けるまで、園子に結婚を申し込まないと自分に誓った・・・おまえはそれが俺に対する供養と考えた。
園子 :そうだったの!?
幸太郎 :ああ・・・
四郎 :そのことを伝えるためにあの世から戻ってきたんだ幸太郎は。
園子 :あの時言ってくれればよかったのに・・・
四郎 :昔から律儀なバカな奴だよな。でもそこがいい所だ。だから園子も惚れたんだろ?
園子 :うん。
四郎 :正解だ。俺も幸太郎を失うのが嫌だった。だから結局会いに行こうとしたんだ。
幸太郎 :四郎、ありがとう。
園子 :よかった。2人の仲が戻って。でも、これから先どうなるの?
幸太郎 :そうだ、園子だけ置いて行けないよ。
園子 :お願い、私も一緒につれてって。
幸太郎 :四郎、頼むよ。
四郎 :・・・辛いけど、それは出来ない。
9 海岸
S E 波の音
幸太郎 :園子も一緒に行くことは出来ないのかい?
四郎 :人は生きている間に自分で決めたテーマを学び、自分に果した使命を実行する。学び終え、使命を果したとき人はこの世を去る。そしてまた新たなことを次の世で再び学習する。そうしながら次第に魂を磨いていくんだ・・・園子にはまだ使命が残っている。
園子 :私に?
四郎 :そう。この経験から本当に人を愛するということを学び、それを今度は人に教えていかなければならない。
園子 :じゃお別れなのね。もう2人には会えないの?
四郎 :会えるよ。俺達は常に仲のいい魂の結びつきなんだ、永遠に。
園子 :永遠に・・・
四郎 :だから心配しないで。
園子 :また会えるのね。
四郎 :そうだよ。
園子 :幸太郎・・・
幸太郎 :うん、また会おう。
四郎 :そろそろ帰る時間だ。園子を病院まで送ってやろう。さあ、もう一度手をつないで。いいか?
S E 瞬間移動の音
10 病院
S E 病院の喧騒
園子 :お医者さんがみんな慌ててる。
四郎 :園子が魂を留守にしたので肉体が生気を失ってるんだ。
幸太郎 :早く戻ってあげろよ。みんな困ってる。
園子 :うん。でも私が目が覚めたとき幸太郎と四郎に会ったこと覚えている?
四郎 :いや、たぶん記憶にはない。
園子 :嫌だ。それじゃ辛いじゃない。
四郎 :それを乗り越えるんだ。苦しみを乗り越えることが学ぶことだから。でも、魂のどこかではきっと覚えているはずだ。
園子 :魂のどこかで・・・
四郎 :心を素直にしろ。自分に素直に。そうすると聞こえてくるから。俺と幸太郎が応援する声が。
園子 :判ったわ。頑張るわ。
幸太郎 :元気でな園子。
園子 :うん。でも私が死んだ時はちゃんと迎えに来てよ、2人で。
幸太郎 :必ず来るよ。
四郎 :約束する。
園子 :ありがとう。幸太郎、四郎。さよなら。
幸太郎 :さよなら。
四郎 :さよなら。
S E 魂が肉体に入っていく音
四郎 :これで後は回復に向かうはずだ。
幸太郎 :よかった。
四郎 :さあ、俺達も帰ろう。
幸太郎 :そうしょう。
四郎 :なあ、幸太郎。
幸太郎 :なんだ。
四郎 :今度3人で生まれ変わるときは、俺が園子を彼女にする。
幸太郎 :だめだ。俺の彼女だ。
四郎 :俺だ。
幸太郎 :いや、俺だ。
幸太郎・四郎 :(一瞬間をおいて笑い出す)
四郎 :お互いあの世で男を磨き直して、園子をビックリさせてやろう。
幸太郎 :よし、そうしょう。
おわり
「死んでもアイラブユー」
Story by ushi