自選式幸福

One Scene

ロンドンでアロマセラピストになった陽子は、日本で小さいながらのアロマのお店を持ち軌道に乗ってきた。でも彼女の心の中は何かが満たされず、よく見る街頭占い師の奇妙な双子のおばあさんに何気に相談してみると、双子のお婆さんは自分たちは占い師ではなく、物々交換屋だと言った・・・

キャスト紹介

《キャスト紹介》

女・川中 陽子(38才) ・・・美人アロマテピスト。
怪しい婆さん(不 詳)  ・・・不気味な魔法使いのお婆さん。
男・合田 勇次(40才) ・・・英国在住の実業家。陽子の元恋人。
女2・・・女性客。
女3(26才) ・・・マミの保育所の先生。

※このドラマは音声で聞くことが出来ます。

S・E クリスマスソングが静かに聞こえてくる。

女  : 寒いのに大変ですね。このお仕事も。

婆  : ああ、この年になると身体に堪えるわい、ひひひ。

女  : いつもここにいらっしゃいますよね。一度占って貰おうと思ってたんですが、なかなか・・・

婆  : 仕事はなかなか順調のようだねえ。

女  : え?

婆  : いいことだよ。

女  : 判るんですか、ほんとうに?!

婆  : (意味ありげな含み笑い)でも心の中には空虚なものがある・・・

女  : (図星なので驚く)えッ。

婆  : 何が欲しいんだい、お前さん?

女  : 言えば、頂けるんですか?

婆  : ああ、いいとも、クリスマスだしねえ。お前さんが最も望むものを1つだけあげよう。でも条件がある。物々交換だよ?

女  : (おもしろがって)冗談好きのおもしろいお婆さん。(冗談を受けて)ええ、いいですわよ。

S・E クリスマスソングが少しアップテンポに変わる

女N : 私はアロマテラピスト。自然のエキスから取れた精油で香を作るのが私の仕事。3年前に出したお店も順調で、お客様も増えてきた。最近では少しだけどマスコミも取り上げてくれるようになった・・・

女2 : 先日作ってもらった香り、とても気に入ったわ。今日も同じもの作ってくれる。

女  : (キビキビと)ありがとうございます。少々お待ちください。

女N : 私とアロマの出会いはイギリスだった。当時愛した人を追いかけて、単身ロンドンに飛んだのはハタチの頃・・・結末は悲しい恋だった・・・ロンドンで傷ついた私を癒してくれたもの・・・それがアロマだった・・・

S・E 店のドアの開閉(呼び鈴)

女  : いらっしゃいま・・・!(驚愕)

男  : 陽子・・・

女  : 勇次さん・・・

男  : キミに・・・逢いに来たよ。

女N : 18年振りに彼と再会した・・・

S・E 喫茶店風なB・G・M

男  : 陽子に会いたくて日本に来たよ。君はあの頃と変っていないね。恨んでいるかい俺のこと。

女  : 正直言って当時はね。でも当時の気持ちを思い出に変えられるほど時間は経ったわ。

男  : 俺は当時追いかけてた夢を実現させた・・・もう一度俺の元に来てくれないか、陽子。

女  : (戸惑い)わたしは・・・わたしはあの頃とはもう違う。守らなければならない大切なものがいくつも出来たの。

男  : なんだい?

女  : 結婚には失敗したけど、娘のマミがいる。お店もそうよ。やっと出して、お客さんも出来だしたのよ。

男  : それなら問題ないよ。すべてを受け入れられるよ。お店もロンドンで出させてあげる。子供はどこでも友達は作れるよ。だから、君のすべてを受け入れたい。

S・E 最初のシーンのクリスマスソング

女  : お婆さん・・・

婆  : どうしたんだい、浮かない顔してからに、ひっひっひ・・・

女  : わたしが一番望むモノって、彼だったのですか?18年前に別れた・・・

婆  : それはわたしにゃわからんよ。お前さんが一番望むモノは、お前さんにしか判らんわけだからねえ、ひっひっひ・・・

女  : 知らなかった・・・自分でも・・・

婆  : そりゃそうさね。人間の心ってモノは、自分でも判っている人間はそういやせんよ、ひっひっひ・・・

女  : (寂しく)そうかもねえ・・・

婆  : でも、忘れちゃいけないよ。物々交換だってことをね。ひっひっひ。

S・E シーンが変ったと判るB・G・M

男  : 決心してくれたかい陽子、ロンドン行きを。

女  : やっぱり無理だわ、今の私には・・・

男  : 昔悲しませた分、幸せにするよ。

女  : 勇次さん・・・

S・E 最初のシーンのクリスマスソング

男  : 陽子、どこへ行くんだい、おい・・・

女  : お婆さん・・・

婆  : 来たのかい、ひっひっひ。

女  : 私、わからないんです。どうしたらいいか・・・

婆  : 何がわからないんだい?

女  : 決心がつかないんです。だから、占ってください。私の未来を!

男  : 陽子、一体誰と喋ってるんだい?

婆  : だから言ったろう、私は占い師じゃないって。ひっひっひ。

女  : (意外)え?!

婆  : (勿体ぶって)わたしは、物々交換屋だよお。ひっひっひ。

男  : 陽子、何を言ってるんだい!ここには誰もいやしないじゃないか!

女  : わたしが心の奥で一番望んでいたこと・・・

婆  : ああ、そうだよ。それと今のお前さんの一番大切なものとを交換。最初の約束だよ。ひっひっひ。覚えているじゃろ?

女  : 私の一番大切なものって・・・

S・E 携帯電話の呼び出し音

女  : ハイ、もしもし。

女3 : マミちゃんのお母さんですね!

女  : (異変を察知)どうしたんですか!

女3 : マミちゃんが・・・マミちゃんが滑り台の一番上から落ちて、救急車で今!

S・E ショック音

女  : (叫び)マミッ、マミッ、マミーーーーーーーーッ!!!

男  : 陽子、陽子ッ!!!

S・E 救急車のサイレンが走り去る

婆  : 彼女が一番大切なもの・・・仕事、恋人、愛しい娘・・・何を選んだかは彼女にしかわからんよ。わたしは占い師じゃないからねえ、ひっひっひ。人間の運なんてものは、入る時もあれば出るときもある。大体似たように出来ているもんさ。お前さん(リスナーに)も御用があればおいでなさい。私は物々交換屋・・・運命というモノを扱っているよ・・・ひっひっひ。

おわり

「自選式幸福」
Story by ushi

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