予知能力少女ナナ

One Scene

不思議な予知能力を持つ”ナナ”に俊夫は偶然、競馬場で出会う。最終レースまでの3レースをナナはことごとく言い当てた。ナナを手なずけた俊夫と、その恋人明子はその日からおもしろいように金を稼ぎまくる・・・

キャスト

ナナ ・・・ 5才。予知能力を持つ。
俊夫 ・・・ 26才。フリーター。
明子 ・・・ 俊夫の恋人。
浩次 ・・・ 明子の愛人。

テーマ曲IN。
テーマ曲OUT。

1.競馬場・観客席

場内の喧騒。
沸き立つ観客の声援。

俊男 :ちくしょう!またハズレやがった。今日は坊主だぜ、全くッ。昼メシ食って、午後のレースで出直だ。

2.競馬場付近の喫茶店

店内のBGM。

俊男 :第10レースっと・・・本命はグレートタロウ、ヒモはトミーロマンで、23、3倍か・・・ゴッドネボーは、52、6倍・・・うん?。

少女の歌声:♪大きな栗の木の下で、あなたとわたしたのしく遊びましょう、大きな栗の木の下で・・・

俊男 :ん?

少女 :♪大きな栗の木の下で・・・

俊男 :おいおい、いつのまにそんなところに座ったんだ?

少女 :こんにちわ。

俊男 :こんにち・・・おい、お父さんかお母さんは!

少女 :いない。

俊男 :迷子?

ウエイトレス:お待たせしました。

少女 :うわ!トマトだ!

俊男 :それ、俺のサンドイッチ・・・あ!

少女 :美味しい!

俊男 :今日はついてないゼ、全く(溜め息)

少女 :お兄ちゃんも、お馬さんが好きなの?

俊男 :(うんざりして)ああ、そうだよ。

少女 :ごちそうさま!

俊男 :どういたしまして。

新聞を奪い取る音。

俊男 :おい、それは絵本じゃ、返しなさい!俺の商売道具なんだから。

少女 :これ!

俊男 :え・・・メアリーキング?

少女 :このお馬さん。

俊男 :メアリーキングが来るってかい。冗談じゃないぜ、こんなショボイ馬。こんな馬買うようじゃ、金をドブに捨てるようなもんだ。

3.競馬場・観客席

割れんばかりの歓声。

俊男 :マジかよ!メアリーキングが・・・大穴だぜ・・・

少女 :♪大きな栗の木の下で、あなたとわたし・・・

俊男 :しかし、まさかな・・・お嬢ちゃん、どうしてメアリーキングが一番になるって分かったの?

少女 :♪たのしく遊びましょう、大きな栗の木の下で・・・

俊男 :アイスクリーム買ってあげようか?

場内アナウンス。

少女 :これ。

俊男 :次はトウカイマンタ?やめてくれよ!これもノーマークだぜ・・・

少女 :このアイスクリーム美味しい。

俊男 :やっぱり、まぐれの偶然か・・・

ゲートが開く音。

俊男 :よし、そこだ行け!・・・逃げ切れよ!・・・な、何!・・・ま、まさか・・・おい、やめて、やめてくれよ!・・・マジで、トウカイマンターーーーーーーーーッ!!!!

割れんばかりの歓声。

俊男 :2レース続けて万馬券。両方とも買ってれば今日の負けはとっくに取り戻してたのに。ちくしょう!でも待てよ。レースはまだ最終レースがあるぞ。うん。

4.公園

ブランコをこぐ音。

少女 :♪大きな栗の木の下で、あなたとわたしたのしく遊びましょう、大きな栗の木の下で・・・

俊男N :俺の名前は佐伯俊男。26歳。職業はしがないフリーター。趣味は週末の競馬だけ。今日も11レースまでは完敗。最終レースも負けてれば完全にオケラ。電車賃も無くなるところだった・・・

5.俊男のマンション・部屋

鉄のドアの開閉音。

俊男 :ただいま。

明子 :おかえり。その沈んだ声は、また負けたのね。

俊男 :これ、やるよ。

明子 :何、これ?

俊男 :お前が欲しがってた、グッチのバック。

明子 :嘘!・・・本当だ!・・・勝ったの?

少女 :こんにちわ。

明子 :誰、この子?

間。

明子 :じゃ何、この女の子が3レースとも当てたって言うの?

俊男 :ああ・・・

明子 :信じられないわよ。何かの偶然よ。でもラッキーだったわね。そのお陰で勝てたんじゃない。お土産付きで。よかったわ。

俊男 :でも・・・

明子 :まさか、この子が本当に勝ち馬を予想したって言うの?(笑い出す)この子の父親は天才予想屋で、その素質を受け継いでいるとでも言うの?

俊男 :3レースだぞ。1回なら偶然って言えるけど。3回連続当てる確率ってどんなもんか知ってるか?

明子 :知らないわよ。どれくらいのものよ?

俊男 :それは・・・まあかなり高い確率には違わないさ。

明子 :本気で言ってるの、あの子が予想したって?

俊男 :明日になれば分かるよ・・・

明子 :警察に届けてあげなくっちゃ。迷子なのよ。

少女 :ミッキーマウス!

俊男 :ああ、そうだね。それは今日勝たせてくれたお礼だよ。持ってていいよ。ところでお嬢ちゃんの名前はなんて言うの?

少女 :ナナ。

俊男 :ナナちゃんか。今日はありがとう。

ナナ :うん!

6.俊男のマンション・部屋(朝)

小鳥のさえずり。

明子 :(叫ぶ!)トシオ!ねえ、俊男、大変、起きて!

俊男 :(寝ぼけて)なんだ、朝っぱらから。今日はバイト休みなんだから。

明子 :当たったのよ、昨日俊男が言ってたヤツ!

俊男 :(飛び起きて)何、本当か!

明子 :これ見てよ!

俊男 :イチサンゴーナナ、1357・・・こっちも1357!

明子 :ナンバーズ、ストレート。賞金は103万5千円よ!

俊男 :あの子は?

明子 :まだ寝てるわ。

俊男 :やっぱり・・・

俊男N :まだ5歳くらいのナナという名前の子は、未来の事をすべて言い当てた。俺はそのナナの力を借りて、競馬と宝クジで驚くほどの金を短期間で手に入れた。

7.レストラン

BGM

ナナ :うわ、これ食べていいの?

明子 :いいのよナナちゃん。他にも食べたいものがあったらなんでも言いなさい、ね。

ナナ :うん、ありがとう。

明子 :ねえ、俊男これ見て。

俊男 :なんだい?

明子 :いちじゅうひゃくせんまん、じゅうまんひゃくまんせんまん。一月で、一千万よ。

俊男 :おい、こんな所で通帳広げるなよ。

明子 :だって凄いじゃない。たった一ヶ月で一千万円よ、全部降ろして来ようか?

俊男 :バカなことするなよ!この子は俺達の子供じゃないんだぞ。それに人目についてマスコミが騒げば、俺達は誘拐犯だぞ。

明子 :(嬉々として)この先、どうする?

俊男N :俺は、少し後悔していた・・・明子にナナのことを言ってしまったことを。俺は知っていた、明子が浮気をしていることを。もう明子とは潮時だから別れようと思っていた矢先だった。俺一人で事を運びたかった。こんなバカ女と一緒なら、いつかは見つかってしまう・・・でも一思いに短期間で大稼ぎして、コイツに幾らか手渡して別れてしまおう。その方が安全だ。よし!

俊男 :よし明子。

明子 :なあに?

俊男 :ナナの力はこれで本物だと分かった。そろそろ大稼ぎといくか!

明子 :そう来なくっちゃ!

8.俊男のマンション・部屋

ラジオから流れてくる競馬の実況中継

明子 :また来たわ。配当で560万円!朝から勝ちっぱなし。締めて3千290万円よ。

俊男N :もっぱら競馬は競馬場に行くのは避けた。ナナを極力人に見られないためだ。これまでの実験でナナの予知能力は、あまり遠い先のことまでは分からないらしい。せいぜい1週間先までのことは分かるようだ。でもそれで金を稼ぐには、十分だった。特に気をつけなければならないのは換金の時だった。あまり派手には出来ない。金はおもしろいように集まった・・・

9.海に近い別荘

波の音。

明子 :潮風が気持ちいいわ。ナナちゃんも来てご覧。

ナナ :うみ!

明子 :そうよ、ナナちゃん。これもナナちゃんのお陰よ。ありがとね。

俊男N :3件目の別荘の購入もキャッシュでした。使っても使っても使い切れないほど金は手に入る。ナナの捜索を気にしていたが、その後そんな話しも聞かない。問題は・・・

明子 :それ何?

俊男 :これか。次に建てる家の図面さ。

明子 :ここは何?

俊男 :金庫室。銀行ばかりに保管してても足がつきそうだから。

明子 :なるほどね。俊男、早く結婚しましょうよ。

俊男 :そ、そうだな。もう少し落ち着いたら。

俊男N :何を言ってる。前の男とまだ切れてないのは、興信所の調査員から聞いて知ってる。明子に知れないように金も別の場所に隠さなければ。そして明子自身も・・・

10.新築の家

山鳥の鳴き声

明子 :海の次は山か。あ?、空気が美味しい!ラスベガスでもかなり勝ったわね、3億くらい。

俊男 :もっと慎重にやれよ。

明子 :大丈夫よ。意気地なし。

俊男N :ダメだ。こんなバカ女と組んでいたらいつかは誰かに見つかる。

ナナ :♪大きな栗の木の下で、あなたとわたしたのしく遊びましょう、大きな栗の木の下で・・・

俊男 :ナナ。ここにいたのか?

ナナ :うん。大きな木。

俊男 :そうだね、大きな木だね。ナナは、俺のこと好きか?

ナナ :好きだよ。

俊男 :そうか。あのお姉ちゃんはどうだい。

ナナ :好きだよ。いつも美味しいものを食べさせてくれるもん。

俊男 :そうか。

ナナ :でも他のお兄ちゃんとも仲良くしてる。

俊男 :そうか・・・

俊男N :やっぱりナナも知ってたのか。あの女のことだ、この先何を企むかも知れない。明子と男が動く前に、先に始末しなくては・・・俺はその為にこんな山奥に家を建てたのさ・・・

ナナ :♪大きな栗の木の下で、あなたとわたしたのしく(突然唄うのを止める)

俊男 :どうしたんだい、ナナ?

ナナ :お兄ちゃんが・・・

俊男 :俺が、俺がどうかしたかい?

ナナ :死んじゃうの・・・

俊男 :え!

ショック音

俊男 :俺が、死ぬ・・・まさか、ハハハ・・・ナナ、嘘だろ?

ナナ :ホントなの・・・

俊男 :誰かに殺されるのか?

ナナ :・・・

俊男 :な、教えてくれよ・・・ナナ、ナナーーーーーーーーッ!(エコー効果)

11.同

俊男N :明子は夕食を買ってくると出かけて行った。街で男と会い、俺を殺す計画でもしてるのか。こんなことなら拳銃でも持ってたらよかった。ここを出るにも車がない。ダメだ、落ち着け!でもナナの予知は外れたことがない。ナナは近い未来のことしか、予測出来ない。と言うことは、近い将来俺の命が危ないということだ。でも先に起こる事を知る事が出来れば、対応も出来るってことさ。そうさ、だから落ち着いて対策を考えよう。そうすれば、未来は変えられる・・・

俊男 :ナナ、教えてくれよ。

ナナ :何を?

俊男 :お姉ちゃんは一人で帰ってくるのかい?

ナナ :ううん。

俊男 :誰かと一緒なのか!

ナナ :うん。

俊男 :そうか!男の人か、女の人なのか?

ナナ :おじちゃんだよ。

俊男 :男か、やっぱり!それでお姉ちゃんはここに来て何をするんだろう。

ナナ :何もしないよ。

俊男 :何もしない。

ナナ :うん。

俊男 :そうか男に殺らせる気なのか。そうはさせないぞ。ナナ、いいかいお兄ちゃんは、ちょっとあそこの金庫室に隠れるからね。隠れててやってきたお姉ちゃん達を驚かしてやろうと思うんだ。だからお姉ちゃん達が来ても何も言わないでくれよ。いいね。

ナナ :うん。

重い金庫のドアが閉まる音。

俊男 :これでよし。鍵は俺が持っている。外からは絶対開かない。夜を待って寝静まった頃に出ていって逆襲してやる。

11.同・表

車の停車する音。
ドアの開閉の音。

浩次 :ここか。

明子 :ええ、そうよ。

浩次 :入って行っても大丈夫なのか?

明子 :あの子の予知は外れたことがないわ。

12.同・中

明子 :ナナちゃん、只今。

ナナ :おかえりなさい。

浩次 :こんにちわ。

ナナ :・・・

浩次 :人見知りするのかなあ?新しいお兄ちゃんだよ。(明子に)それであの男は?

明子 :金庫の中よ。

浩次 :確かなのか?

明子 :本当よ。ねえ、ナナちゃん。前におねえちゃんが聞いた時に教えてくれたもんね。お兄ちゃんはお姉ちゃんが出かけてる間に、あの金庫の中に入るってね。

ナナ :・・・

明子 :お兄ちゃんに口止めされたのかな?

浩次 :確証はあるのか?

明子 :外から開けられないように鍵を持って入っているはずだわ。そこの一番上の引き出しを見て。

引き出しを開ける音。

浩次 :ない。

明子 :予知通りだわ。これですべて完璧よ。

浩次 :中から開けられるんじゃないのか。でないと入らないだろ。

明子 :そのはずだったわ。でも、私が変更したの。

浩次 :変更?

明子 :金庫の図面を変更したのよ。中からは開かないようにね。

浩次 :じゃ彼は出て来れない。

明子 :鍵が中じゃ外からも中からも開けられないわ。

浩次 :そうか・・・それは仕方ないな。

明子 :彼もお金に囲まれて死ねば本望でしょ。さあ、行きましょ。

浩次 :この子は?

明子 :明日、連れに来ればいいわ。でないとホテルの部屋に夜は一緒に居れないでしょ。

浩次 :(意味が分かり)あ、そうか、そうだよな。(ナナに)今日はここでお留守番しておいてね。明日、迎えに来るからね。夕食は買って来たからね。

明子 :ナナちゃん、いい子にしててね。

浩次 :でもこの子がそんなに凄い予知能力があるなんて、へえ。ナナちゃんお兄ちゃんとこのお姉ちゃんはこの先仲良く出来るかな?

ナナ :・・・

浩次 :この先どうなるのかな?

明子 :早く行きましょうよ。

浩次 :おお、待ってくれよ。

車のドアの開閉の音。
車、走り去る。

ナナ :(呟く)死んじゃうよ・・・

13.走る車の車内

浩次 :これで俺達は晴れて大金持ちの夫婦になれるんだ、明子・・・

明子 :あ、やめてよ運転してるんだから危ないじゃない。

浩次 :今だけでいくらくらいあるんだ金は?

明子 :あなたが見たこともないくらいよ。

浩次 :そうか、今度ゆっくり拝まして貰うよ。俺は、今までどんなに我慢していたか。明子・・・

明子 :アタシもよ、コウジ・・・アン・・・

急ブレーキ音

浩次 :危ない、前ッーーーーーーーー!
明子 :きゃーーーーーーーーッ!

車の激しいクラッシュ音。

14.金庫の中

俊男 :(悲壮な声で)ない、ない、ロックがない!・・・どうしてだ!なぜないんだ。確かここの辺りに、ロック解除の鍵が・・・どうして、ないんだ!どうしてなんだーーーーーー!!!(エコー効果)

ナナの唄、次第に高まってくる。

ナナ :♪大きな栗の木の下で、あなたとわたしたのしく遊びましょう、大きな栗の木の下で・・・♪大きな栗の木の下で、お話しましょう。みんなでわになって、大きな栗の木の下で

15.競馬場付近の喫茶店

店内のBGM
ラジオから競馬中継がながれている。

清水 :あれ、いつの間に俺の前に?

ナナ :こんにちわ。

清水 :お嬢ちゃんも競馬しに来たの?

ナナ :コレ!

清水 :サンデーシバヤン、これはダメだよ。着外だよ。賭けてもいいよ、当たったらパフェ奢るよ。

アナウンスの声:第4コーナーを回ってサンデーシバヤンが来た。サンデーシバヤン!サンデーシバヤン!サンデーシバヤンそのままゴールインッ!!!!

おわり

「予知能力少女ナナ」
Story by ushi

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