ワインレッドのウインク

One Scene

独り気ままなミッドナイトクルージング。そこへ突然現れたGTーRの美人ドライバー。一夜のクルージングはますます楽しくなる・・・

キャスト紹介

男 (佐々木 克彦)・・・カメラマン。車で走る事が趣味。ハードボイルドに決めたいが、3枚目になってしまう。
女 (熊谷 文恵)・・・アクティブな美人。愛車セリカG-TRを疾走させる。根明で嫌味が無く気さく。

夜の第二神明高速

S E 車内に聞こえるエンジン音

男(N):夜の第二神明高速。午後11時30分。今日は星がやけに多く見える。もちろんお月様もまんまる顔で、ご機嫌のようだ。俺も今夜は機嫌がいいので、思わずお月様に声を掛けたくなる。この時間だと車の数も少なく、夜のクルージングを楽しむのには最高だ。車好きの俺は週に1度はこんな風にして、一人で夜のドライブを楽しむ。もちろん目的などはない、ただ走ることだけが目的。休み前で気分が乗ったときは、400キロも走ったことがある。まあそんな事はマレだけど、知らない所も平気で走るから、思わぬ発見をすることがある。気の効いた喫茶店、おいしいラーメン屋さん、目もくらむような蛍林、そんな場所を見つけた時は、何か自分だけ得をしたような気持ちになる。そんな事に巡り合えるのが、目的の無いクルージングのよさだ。

S E 二輪が猛スピードで駆けていく

男(N):スピードを出したい人は出せばいい。俺はもっぱらのんびり運転。周りのロケーションを楽しみながらあくまで走る。それが俺の一つの信条。高丸を過ぎ次の大蔵山インターチェンジで、この日も俺は、素敵な発見をした。合流地点で一台のセリカが上ってきた。目を引くワインレッドの色をしている。赤はよく見かけるがワインレッドのGTーRは珍しい。俺は減速をしてワインレッドを入れてあげた。躊躇することなく、グッドタイミングで俺の前に入り、本線に合流した。次の瞬間俺は「あッ」となった。彼女はウインカーを左右に一度づつ点灯させたのだ。なんて粋で嬉しい、まるで魅力的なウインクに見えた。彼女はミラーだけで確認したのでこちらを見なかったが、あのロングのヘアーは必ず美人に違いない。俺のドライブ経験から答えは一瞬にしてはじき出された。ワインレッドは本線から一回のウインカーシグナルで追越し車線に出て、後は一気にダイナミックな加速を見せた。俺も思わずシフトダウンし、ワインレッドに続いた。一気に120キロは出たが、ワインレッドはなお加速していく。「ヤバイぞ」俺は心の中で叫んだ。この先にはオービスが待ち構えている。そのときワインレッドはまたしても、信じられない芸当を見せた。記念写真がフラッシュするその瞬間、本線に一瞬間ハンドルを切りトレーラーの図体で、その閃光をかわしたのだ。「ヒャッホー」俺は思わず、運転席で飛び上がりかけた。Jリーグならおもわずホイッスルを吹きまくるシーンだ。でも俺の1800ccではここまでが限界だった。

S E エンジンの停止音

男(N):興奮を覚ますため、俺はパーキングエリアに立ち寄った。でも今夜の俺はツイていた。なんとあのワインレッドがすまして、パーキングしているではないか。ドライーバーはいない。おそらくあの美人は何事も無かったかのように、どこかで一人、ブッラックコーヒーでも飲んでるに違いない。今の俺はまさしくミーハーのオッカケの心境だ。無視されてもいいからそばで見たい。10分程してあのワインレッドの主は現れた。思ったとおり、飛び上がりたいくらいの美人だ。無視されてもいいから声を掛けてみよう。今夜の俺はツイてるぜ。

男  :あの・・・

女  :(私?というように)はい?

男  :お見事でした。

女  :え?

男  :必殺オービス抜けのテクニック。

女  :(弾けた様に笑い)嫌だ、見てたの。

男  :思わず拍手しました。

女  :事故るわよ。ハンドルから手放しちゃダメよ。

男  :それほどあなたのテクニックに感動したって事ですよ。

女  :上手なんて言われたの初めてよ。いつも女のくせに荒っぽいだとか、無茶苦茶走るって怒られるの。

男  :俺、佐々木克彦と言います。

女  :熊谷文恵です。

男  :車は全くのノーマルなんですか。

女  :そうよ、車はノーマルで乗るものよ。それに彼は特に優秀でハンサムだから、手を入れる必要なんてないわ。

男  :(驚いて)彼って、男なんですか?

女  :そうよ。名前は「ジェフ」。つき合って2年と3ヵ月。最高の私のパートナー。

男  :そ、そうなんですか・・・

女  :でも、今日で彼とはお別れ。最後のランデブーデートだから、ちょっと感傷的になってたの。

男  :最後の?

女  :私、明日結婚するの。もちろん相手は人間よ。新居には彼に居てもらえるスペースがないの。

男  :結婚するんですか・・・そうですか・・・(ガッカリ)。

女  :どうかしたの?

男  :ううん。今日の僕はラッキーだったんだけど、せっかく知合えた美人は明日ウエディングベルを鳴らす人だった。だからちょっとガックリ。

女  :私もラッキーだったわ。

男  :え、どうして?

女  :あなたがもしおまわりさんだったら、せっかくのラストデートが台なしになってたところだわ。

男  :そうか(笑う)

女  :だから、ありがとう。

男  :じゃ、君のラストデートにプレゼントをあげるよ。

女  :本当!嬉しい。

男  :ちょっと待って。

S E 車のドアの開閉と音

女  :カメラ!

男  :そう、ジェフとの最後のクルージングの記念に。俺、仕事で写真撮ってるだ。

女  :うわあ、カッコイイ。プロのカメラマン!

男  :でも、まだ写真だけで喰えないから、ビデオ撮影もしてるけどね。だから記念撮影は得意さ。さあ、ジェフとならんで。

女  :(嬉しそうに)うん。

男  :うん、素敵な笑顔だよ。バッチリだ。明日の結婚式でもその笑顔を忘れないように。

S E カメラのシャッター音。

男(N):こうして俺のミッドナイトクルージングの中に、またいい思い出が出来きた。そして、これは神様がオマケのツキをくれたのか、 その翌日の俺の仕事はなんと昨夜のワインレッドの美人、熊谷文恵さんの披露宴パーティーだった。ウエディングドレス姿の彼女は、昨日にまして美しかったのは言うまでもない。そして彼女は、俺を見つけてくれて、ちょっと驚いた表情をしてから、夕べ見せてくれたのと同じく、俺に左右のウインクを2度してくれた。

おわり

「ワインレッドのウインク」
Story by ushi

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