Ten Years After
高校2年生の当時に、友達の垣根を超えるために二人だけの旅行に出た潤と麻美。その旅先で10年後に宛てたお互いへのメッセージをタイムカプセルに入れた・・・10年越しの潤と麻美の物語。
このドラマには十年前のお話があります。まだお読みでない方は、そちらから先にどうぞ
>>> “もう友達じゃない”
キャスト紹介
男性客・正木 潤(27才)・・・サラリーマン。かつての麻美の恋人。
女性客・吉田麻美(27才)・・・OL。初恋の相手である潤を今でも想っている。
10年ぶり
S E ドアの開閉の音
女性客 :こんばんわ、マスター。
マスター :いらしゃいませ。
女性客 :どうぞ。
男性客 :ありがとう。
女性客 :マスター紹介します。私の彼の正木潤さん。
マスター :始めまして。
男性客 :(困惑)あ、いえ・・・
女性客 :と言っても、彼氏だったのはもう10年前の話なんです。
マスター :10年前、ですか?
女性客 :話しだすと長くなるのでとりあえず、私はブランディ・ジンジャーをお願いします。
男性客 :じゃ僕も・・・
マスター :かしこまりました。
S E ドリンクを作る音
女性客 :お話しの主人公の男の子も女の子も当時まだ17才の高校生でした。男の子はその女の子を一目見て好きになりました。
男性客 :おいおい。
女性客 :女の子も彼の事を一目で気に入りました。
男性客 :なるほど。
女性客 :二人は友達の垣根を越えるため旅行へでます。二人だけの始めての小旅行でした。そして二人はその夜友達という関係から恋人という関係になりました。
マスター :おめでとうございます。どうぞ・・・
女性客 :その後その二人は恋人という楽しい時間を共有しました。受験も励まし合って進学をしていきます。彼女は時間と共にますます彼の事を以前より想うようになりました。
男性客 :・・・
女性客 :でも、よくあるようにこの恋にも終わりが来ました。理由もよくあることでした。
男性客 :怒ってるか?
女性客 :・・・いいえ、だから・・・
男性客 :ああ・・・
S E グラスを合わせる音
タイムカプセル
女性客 :怒ってやしないわ。なんせ10年近くも前のことよ。それより嬉しかったわ。10年前の約束を守ってくれて。
男性客 :俺も驚いたよ、麻美を見たときは。
女性客 :マスター、これ見て下さい。
マスター :古いジュースの缶ですね。
女性客 :タイムカプセルなの、ね。
男性客 :二人で昔作って埋めておいたんです。
マスター :タイムカプセル?
男性客 :ええ、さっき彼女が言った話は本当で。二人で四国へ旅行に行った時、こんぴらさんの大門の木の麓に埋めたんです。
マスター :そうですか。
男性客 :10年後に開けに来ようってその時約束をしたんです。
女性客 :これが当時の二人の写真です。
マスター :お二人ともかわいらしいですね。
女性客 :まだ二人とも17才だもん。希望に溢れて未来を信じていた頃よ。
男性客 :それからは?
女性客 :夢多き乙女はその後失恋の悲しさを知りました。社会に出て挫折というものも知りました。孤独や裏切りというものも経験して少しずつ大人へとなりました。
男性客 :そして優しさを知るイイ女になりました。
女性客 :あなたは?
男性客 :昔かわいい子と別れた事を後悔して生きてきた。
女性客 :嘘ばっかり。変わってないのね、すぐに冗談を言ってはぐらかす癖。
男性客 :まんざら冗談でもなかったりして・・・
女性客 :なら嬉しいわ。
男性客 :麻美・・・
女性客 :なに?
男性客 :今、幸せか?
女性客 :どうかしら・・・幸せなら昔の男との10年前の約束を思い出すかしら?
男性客 :なるほど・・・
10年後への手紙
女性客 :10年後の麻美へ。この手紙を読んでいる頃はおそらく、僕達は結婚しているだろう。早ければ子供も一緒にいたりして。しっかり者の麻美に僕は尻に敷かれているかもしれない。でも仲の良さは今(10年前)と少しも違わない。どうだい俺の予想は当たっているだろう?10年前の潤より。P・S俺は何年たっても麻美を愛しています。10年前のあなたからのメッセージよ。
男性客 :心が痛むなあ。
女性客 :何年たっても愛してくれてるんだって。
男性客 :俺は嘘つきだよ。
女性客 :嘘じゃなかったんでしょ。この時は本当にそう思ってくれてたんでしょう?
男性客 :そうだな。
女性客 :ならあなたは嘘つきじゃないわ。
男性客 :そうか・・・麻美のを見せてくれよ。どれどれ、10年後の潤へ。この手紙を読んでいる時には・・・もう私達は付合っていないと思います。だって初恋の人と結ばれることってあまりないんだもん。ひょっとしたら私だけがここに来ているかも。でも潤を好きなことに違いはありません、何年、何十年たっても。それとこの旅行はいつまでも私のいい思い出となることでしょう。もしこの手紙を一人で読むことになっても悲しまないでね、10年後の麻美ちゃん。潤と過ごした青春の思い出を大切に・・・
女性客 :付合ってた頃からずっと不安だったのよ。
男性客 :ずっと?
女性客 :ええ、潤はスポーツマンで明るくて人気があったでしょ。だからいつまでも私の側にいてくれないって、そんな気がしてたのよ。私が恋した男はイイ男だったもん、他の女もほっとくわけがないってね。
男性客 :麻美・・・
女性客 :だから覚悟はその頃から出来ていたのね。
男性客 :バカだなあ・・・
二人の縁
女性客 :だから今日10年振りに潤を見たら、涙が出そうになったわ。
男性客 :涙はなかったぞ。
女性客 :必死に堪えていたのよ。
男性客 :俺も懐かしかった。
女性客 :それだけ?
男性客 :嬉しかった。
女性客 :覚えてくれてたのね、約束。
男性客 :男と女の約束だから。
女性客 :変なのそれって・・・
男性客 :変なものか。女は女でも俺の女だったんだから麻美は。
女性客 :2年間・・・
男性客 :なぜ別れたんだろう?
女性客 :潤が振ったくせに・・・
男性客 :でも麻美は何も言わなかった。
女性客 :言えなかったのよ、悲しすぎて。バスタオルが絞れるくらい一人で泣いたんだから。
男性客 :今日会えなけりゃ一生知らないところだ。麻美はもっとクールな女だと思っていた。
女性客 :人一倍臆病なのよ。だから返って強がる所があるのよ。
男性客 :10年振りに知った事実だ。
女性客 :強がっていたのかも知れないわ、若かったから・・・
男性客 :今は自然体?
女性客 :自然体なら、今日潤を見たとき泣いていたわ。
男性客 :半自然体?
女性客 :そうね。
男性客 :でもとにかく俺達は再会した。このタイムカプセルのお陰で・・・こういうのを運命の巡り合わせって言うのかな?
女性客 :ちょっと違う気がする。どう思われますかマスター?
マスター :そうですね、お二人の縁は切れていなかったのではないでしょうか?
男性客 :縁が切れていなかった?
マスター :お互いにずっと縁という糸を大切に放さずに持っていた。そしていい時期が来たのでその糸をゆっくり手繰り寄せた。私にはそんな風に思われますが・・・
縁を手繰り寄せる
女性客 :そんな風に言われると素敵ね。
男性客 :縁という糸を手繰り寄せたか・・・マスターは詩人ですか?
マスター :いいえ、ただ感じたままを申したまでです。
女性客 :縁があるのなら、どうして別れてしまったのですか?
マスター :それは、お互いまだ若かったので、学ばなければならないことがあったからではないでしょうか?
女性客 :一緒に居てはいけなかったのですね?
マスター :そういう場合もあると思います。
男性客 :なるほど。一緒に居ては学べないことだ。
女性客 :なにかしら?
男性客 :そりゃ・・・相手の良さじゃないかな。
女性客 :相手の良さ?
男性客 :麻美も俺と別れてから、他の男と付合っただろ?
女性客 :そりゃ・・・まあ。潤は?
男性客 :俺も、まあ・・・
女性客 :何人と?
男性客 :いや、そういう数の問題じゃなくて・・・ほら、相手を見る目を養ったということさ。
女性客 :まあ、ね。
男性客 :付合っていてはなかなか難しい。
女性客 :浮気になっちゃうもんね。
男性客 :そうそう。
女性客 :潤はかなり多く学んだみたいね。
男性客 :それほどでもないけど・・・
女性客 :もうお互い学び終えたのかな?
男性客 :どうかな?
女性客 :だから再会出来たって、思っちゃいけない?
男性客 :・・・
女性客 :二人の縁の糸の最後を引き寄せちゃダメ?
男性客 :それには、ちょっと問題があるよ・・・
女性客 :なに?
男性客 :俺は結婚した・・・
切れてなかった縁
女性客 :結婚!
男性客 :4年前に・・・
女性客 :(愕然と)そうだったの・・・
男性客 :ああ・・・
女性客 :切れてたのね、二人の間の糸は・・・私ってバカよね。再会できたからすっかりまた一緒に居られるのかもって、期待なんかしっちゃって。大きな勘違い。バカね・・・
男性客 :・・・
女性客 :またタイムカプセルを作りましょうか。十年後に会えるように?
男性客 :もう、作りたくない。
女性客 :どうして?私ともう会いたくないって意味?
男性客 :いや、そうじゃないんだ。
女性客 :じゃどうして?
男性客 :切れた糸を結んじゃいけないか?
女性客 :え?
男性客 :もう一度・・・
女性客 :だって潤・・・
男性客 :離婚したんだ、去年。
女性客 :離婚!
男性客 :協議離婚ってやつさ。
女性客 :だって、今問題があるって・・・
男性客 :だから俺はバツイチだぞ。
女性客 :それが問題なわけ・・・
男性客 :(麻美に抱きつかれた)おい、麻美。こんなところで!
女性客 :別れたんなら、早くに言えよ、バカ!
男性客 :麻美・・・
女性客 :もう放さないからね・・・2度と放さないからね・・・
男性客 :バツイチの男でもいいのかよ?
女性客 :バツイチ、バツニでも、そんなのいいよ・・・
男性客 :ほらマスターが笑ってるだろ。
マスター :いいんですよ。よかったですね麻美さん。今度はその切れなかった糸を二人で丈夫に強く編み上げて下さいね・・・
おわり
「Ten Years After」
Story by ushi