MENU

来なかった待ち人

ホラー番組を書くことになったライターが幽霊を頻繁に見るという少女にインタビューをする。その少女が見る幽霊とは1年前に自分が海で殺した親友なのだと語る。そしてその霊は1年後に彼女を…

※このドラマは音声で聞くことが出来ます。

《キャスト紹介》

男性客・・・年齢31才。シナリオライター。何事にも興味心旺盛。

女性客・・・19才。何事にも消極的でおとなしい。

マスター・・・

取材

マスター :おかわりをお作りしましょうか?

男性客  :そうだな、お願いします。

マスター :同じものでよろしいでしょうか?

男性客  :なにか、さっぱりする・・・そうだ、トム・コリンズを。

マスター :かしこまりました。

S E ドリンクを作る音。

マスター :お待たせしました。

男性客  :ありがとう。

マスター :お仕事が終り、ホッと一息ですか?

男性客  :いえ、これからで頭を抱えています。

マスター :新しい作品の構想中ですか?

男性客  :ええ、今度夏の特番でホラー特集をやるんです。その台本を書かなければいけないんですけどね。

マスター :恐怖物?

男性客  :そうなんですよ。でも僕は恐怖体験とか霊体験ってやつが1つもないんですよ。マスターはお化けご覧になったことってあります?

マスター :残念ながらありません。

男性客  :そうですか。一度でも見たらイメージが湧くのに、出てきて貰いたい人には姿を見せてくれないもんなんですねかね?

マスター :さあ、どうでしょう。

男性客  :困った挙げ句友人に電話しまくって、やっと幽霊をよく見るという少女を紹介して貰えたのですよ。

マスター :では、これから取材ですか?

男性客  :ええ、マスターもよければ一つお話を聞いておけばいかがです?暑さしのぎに・・・

マスター :わたくしは・・・

男性客  :あ、ひょっとしてマスターは、苦手なんじゃないありませんか・・・(相手を怖がらせる声で)ユ~レイが!

少女

S E ドアの開閉の音。

マスター :いらしゃいませ。

男性客  :あのー、早坂さんでいらっしゃいますか?

女性客  :はい・・・

男性客  :遅い時間にわざわざすみません。まあ、こちらへどうぞ。

女性客  :どうも・・・

男性客  :私、古谷と申します。

女性客  :早坂、早苗です。

男性客  :なにかお飲物をどうぞ。

女性客  :わたし、アルコールは・・・

男性客  :じゃオレンジジュースでも?

女性客  :はい。

マスター :かしこまりました。

S E ドリンクを作る音。

マスター :お待たせしました。

男性客  :似合いますよ、そのブルーのワンピース。

女性客  :どうも・・・

男性客  :(マスターに)いや、初対面だから目印にブルーのワンピースを着て来て貰ったのです。

マスター :夏らしくとてもかわいいですよ。特に胸のリボンが。

女性客  :どうも・・・

男性客  :こんなかわいい子だったんなら、取材なんかやめちゃいたくなるなあ。ねえ、マスター。

マスター :しっかりお仕事して下さい。

男性客  :あ、さっきの仕返しですね。まいったなー。と、空気も和んだところで、早速ですけどお話し伺わせて貰えますか?

女性客  :はい・・・

男性客  :どんな体験でしょうか?

女性客  :ええ・・・

男性客  :結構ですよ。僕は商売柄多少どんな話しを聞いても平気です。それとプライベートは絶対厳守しますから安心して、気楽に喋って下さい。

女性客  :・・・

男性客  :大丈夫ですって、何を聞いても驚いたりしませんから、ね。

女性客  :・・・わたし、人を・・・殺したんです。

男性客  :(驚いて)ええッ!!!!!!

嫉妬

男性客  :ど、どうも失礼。今、なんて言われました?

女性客  :人を、殺したと・・・

男性客  :(落ち着こうと咳払い)よければ、最初から話してもらえませんか?

女性客  :わたしには幼い頃からの親友がいました。彼女の名前は千草香織。私達はとても仲良しで、顔の作りまで似ていたものですからよく近所の人に姉妹みたいだと言われてました。小学校から高校まで同じ制服を着て、一緒に登校もしていました。

男性客  :なるほど。

女性客  :香織は頭も良く素直でした。だから友達もたくさんいました。

男性客  :早苗さんは?

女性客  :わたしは極度に人見知りするんです。だから友達も香織に紹介してもうことが多かったんです。

男性客  :性格が対照的だったんですね。

女性客  :ええ・・・

男性客  :それで?

女性客  :高校2年の時、香織にバスケットボール部のマネージャーにならないかと誘われました。当時男子バスケット部にはマネ-ジャーがいなかったんです。それと・・・

男性客  :それと?

女性客  :香織はバスケット部に好きな男の子がいました。山崎君と言います。

男性客  :そのことを香織さんは早苗さんに話してくれたんですか?

女性客  :いいえ、でもすぐにわかりました。なんとなく・・・

男性客  :どうして話してくれなかったんでしょう?

女性客  :それは・・・たぶん香織も気づいていたからかもしれません。

男性客  :あなたもその男の子が好きだったと。

女性客  :はい・・・

男性客  :それで?

女性客  :それで・・・あの、夏が来たんです・・・

夏の海

男性客  :夏?

女性客  :ちょうど1年前の今日が・・・

男性客  :1年前の今日?

女性客  :バスケットの部員で海に行くことになり、私と香織も誘われました。最初香織は嫌がりました。

男性客  :恥ずかしかったのかな?

女性客  :香織は、泳げなかったのです。

男性客  :カンヅチだった?

女性客  :ふだん消極的なわたしがその時、はじめて香織を強引に誘ったのです・・・何かに心を突き動かされるように・・・

男性客  :うん・・・

女性客  :人気のある海岸は人が多いので、明石の向こうの江井ヶ島という所へみんなで行きました。男の子達は元気に海へ出ていましたが、泳げない香織はずっと浜辺にいました。香織はその間、ずっと山崎くんを目で追ってました。たぶん香織は山崎くんに声を掛けて貰うのを待っていたんだと思います。その数週間前から香織と山崎くんはクラブの練習が終ると一緒に下校してましたから・・・

男性客  :二人は付合いはじめていた?

女性客  :わたしは、苦しかったんです・・・香織と山崎くんが一緒にいるところを見るのが・・・とても・・・
男性客  :分かるよ君の気持ち。

女性客  :山崎くんが声を掛ける前に、わたし香織を海に誘ったんです。 香織はもちろん嫌がりましたが、腕を取り強引にゴムボートに乗せて沖に出ました。テトラポットの外まで出た時・・・わたし・・・

男性客  :どうしたのです?

女性客  :香織の、背中を押しました・・・

男性客  :!

女性客  :香織は・・・香織は必死になって、わたしに手を差し出しました・・・

男性客  :・・・

女性客  :でも、わたし、ただ見ていたんです・・・ものすごく冷静に。

訪ねて来た親友

女性客  :香織の死は事故死扱いされました。

男性客  :・・・

女性客  :わたしは、自分がしたことを理解するのに長い時間がかかりました。

男性客  :うーん。

女性客  :お話したいのはここからです。不思議なことが起き出したんです。

男性客  :不思議なこと?

女性客  :わたしの家の廊下や、部屋の一部が水でずぶ濡れになっていることが度々起こりました。家族の者は不思議がりました。でも、わたしはすぐにわかりました。

男性客  :?

女性客  :香織が来たんだと。

男性客  :死んだはずの香織さんが。

女性客  :一番最初は、浴槽の中に現われました。水脹れになった醜 い顔で、湯船の中からわたしを睨んでいたのです。

男性客  :まさか・・・

女性客  :その後も頻繁に香織は現われて、わたしにこう言いつづけました・・・「来年のあの日に、必ず迎えに来るからね」と・・・

男性客  :来年のあの日ですか。

女性客  :ええ、香織が死んだ日・・・

男性客  :まさか・・・

女性客  :今お話したことはすべて本当です。

男性客  :うーん。

女性客  :お疑いでしたら、どうか警察でお確かめ下さい。

男性客  :いえ、信じないという訳ではありません。とても迫力あるお話でした。でも、ちょっと待って下さい。もし、今のお話しが本当なら、今日は香織さんの命日。香織さんがあなたを迎えに来ると言った日じゃありませんか。

女性客 :ええ、そうです。

来なかった待ち人

男性客  :安心して下さい。もう12時はまわっています。香織さんの幽霊が言ってた日はもう過ぎました。きっと、早苗さんの罪の意識が生み出した幻覚だったのです。

女性客  :(急に我に返ったように)12時を過ぎている。

男性客  :どうかされましたか・・・

女性客  :帰ります・・・

男性客  :あ、ちょっと待って下さい。送りますから。

女性客  :結構です。友達がすぐそこまで迎えに来てくれてますから。失礼します。

S E ドアの開閉の音。

男性客  :(ふーと一息)マスター、今の話しどう思われます。

マスター :不思議なお話ですね。

男性客  :僕は彼女は親友の事故死で、ノイローゼになっているんだと思いましたね。いくら同じ男の子を好きになったからと言って殺せますか、あんなにまだ幼い子が?

マスター :そうですね。

S E 電話のベルの音

マスター :もしもし・・・サンドリオンでございます・・・はい・・・ちょっとお待ち下さい。お客様・・・お客様にお電話です。

男性客  :僕に?誰かの間違いでしょう。だって今日僕がここに来ているのは誰も知りませんよ。

マスター  :警察の方からだと。

男性客  :もしもし・・・はい、古谷は私ですが・・・そうです、確かに古永徹は自分です・・・え、はあ・・・え!!!!!!まさか、本当ですか・・・で、いつのことです・・・・しかし信じられません・・・・分かりました、すぐにお伺いします・・・(受話器を切る)

マスター :どうされましたか?

男性客  :信じられないことですが・・・早坂早苗は死んだそうです。

マスター :さっきの女性が!

男性客  :もし、ついさっきここから出ていった子が確かに早坂早苗という女性ならですが。

マスター :どういうことなのでしょう?

男性客  :早坂早苗は、10時12分にトラックにはねられて即死したようです。彼女の所持品に僕と会う約束の日と時間と、ここの電話番号があったそうです。

マスター :彼女がここへ来たのはたしか10時半くらいでした。

男性客  :警察が言うには・・・ブルーのワンピースを着ていたそうです。

マスター :まさか・・・

男性客  :そうですね・・・警察へ確認に行ってきます。もしも・・・もしも警察が言う通り、死んだ子が僕たちが会っていた早坂早苗だったら・・・まさかね

マスター :でも・・・

男性客  :どうしました?

マスター :でも、彼女確かここを出る時に言ってましたね・・・

男性客  :な、なんて?

マスター :お友達がすぐそこまで迎えに来てくれてると・・・

おわり

「来なかった待ち人」
Story by ushi

目次

あとがき

シナリオライターをしていた頃、やっぱり夏になると恐怖物のドラマを書いて欲しいとの要望がありました。

僕はこのドラマの主人公の男のように、幽霊は見る事も聞くことも全くありませんでした。なので、やっぱりこの主人公のように友達に会っては、常に「何か恐怖体験ってない」といつも聞いておりました。ネタ集めです。

でもやっぱり霊感がある人(女性が多かった)は、結構幽霊に会ったりする機会が多いものだと知りました。

その幽霊をよく見る、という女性から聞いた話を元に作ったこれはフィクションです。

やっぱり幽霊も人を選ぶものなのでしょうかねぇ。。。(^^;

この記事を書いた人

神戸在住の牛王田雅章(うしおだまさあき)、通称牛(うし)です。このサイトは僕の全活動をまとめた公式サイトとなっております。

目次