神戸港の波は満月を反射して美しく穏やかだった。
第1突堤にくみとボロはすでに来ていた。
対岸にはモザイクの電飾が華やかに見える。
先週の土曜日にはその沖合いから3000発の打ち上げ花火が上げられた。
ここへ来る道すがらボロには事のいきさつをすべてくみは話していた。
ボロは黙って終始俯いたままくみの話を聞いていた。
くみは今も自分の気持の所在が見当たらなかった。
最終的な決断は下されていないままなのだ。
相変わらずくみはこれまでどおり優柔不断だ。
静寂の中を一台のワゴン車が近づいてきた。
まるで終始ローギアで走っているような唸りをあげている。
舗装されていない凸凹にタイヤをとられてハッチバックが開いた途端、ビニールで梱包されている布団が道端に投げ出された。
ワゴン車は止まり、運転席から出てきた男は無言で車の後部に回り、落ちた布団を拾い上げ元の荷台に投げ込んだ。
暗闇の中こちらを向いた男は恭介だった。恭介は父の代からしている布団屋を継いでいた。
三菱の乗用車が反対側より滑り込んで来た。
岸壁だからかライトはアップにされている。
ライトはくみ達の元へ来て止まった。
エンジンが止まりライトが消えた。
運転席からはダークスーツの長身の男が降りてきた。
ドアを閉め、右手をポケットに入れ斜に構えて暗闇に立っている。
シルエットだけで、くみにはこたろだとすぐにわかった。
二人は約束の時間丁度に来たことになる。
くみは劇的なラストシーンを迎える予感に子宮が疼いた。