その朝は久しぶりの快晴だった。
「くみさん、小芋は好きでっか?」
キッチンで包丁を使いながらボロが聞いてきた。
朝食はいつもボロが作ってくれる。
ベッドで雑誌を読んでいたくみは「好きよ」とページから目を離さずに答えた。
すでに二人の生活も3週間目に入るが、取りたてた問題は何もなかった。
むしろ昔に比べ快適な生活だった。
ボロは身の回りのことをすべてしてくれた。
良き相談相手であり話相手でもいてくれた。
ベストパートナー。
小芋の煮物はほどよい味に仕上っていた。
「ボロちゃんは、私以外の他の人好きにならないの?」
差し向かいで一緒に食べているボロにくみが聞いた。
「ならしまへん」とボロが笑顔で答えた。
「そうよね」とくみはいまさら何を聞いているのだろうと思った。
「今日仕事終わったら、映画見まへんか?」とボロが聞いてきた。
最近ではボロもアルバイトだが仕事をしている。
ロボットの社会進出に伴い、労働法の改正でロボットにも労働の場が与えられるようになった。
今日ははじめての給料が貰えるので誘ってくれているのだ。
彼は申し分がないほどくみを愛してくれている。
「そうねえ・・・」と考えているようだが、くみの頭の中は昨夜の恭介との記憶が蘇っている。
夢ではなかったのかとも思う。
カフェを出て別れたのだが、別れ際確かに恭介はくみとの交際を改めて求めたのだ。
「そうねえ・・・」くみは再び同じ言葉を繰り返した。
出勤用のバッグの中のくみの携帯電話が鳴った。
「ハイ?」と少しいつもより高音の声でくみは出た。
「こたろですが、お久しぶりです」