お気に入りの作家・柚月裕子著の「朽ちないサクラ」と「月下のサクラ」を読む。
読むというよりも最近はもっぱらAudible(Amazonサービス)を利用しているので、読むというより聞くという方が正確か。
柚月裕子さんと言えば代表作はやはり映画化にもなった「虎狼の血」だろうか。映画となった本作品も役所広司、松坂桃李、真木よう子、中村獅童、ピエール瀧、石橋蓮司、江口洋介など豪華キャストがみな迫真の演技で相当におもしろかった。
柚月裕子さんは女性でありながら、刑事ものそれも無骨な荒々しい男を描かせたら天下一品だと思う。エッセーなどを読めば、幼少の頃より少女が憧れるヒロイン物よりもブルース・リーなどを愛する少し変わった少女だったみたい。
今回読んだ「朽ちないサクラ」と「月下のサクラ」にも、そういう昭和を絵に描いたような男たちが登場する。待ってました、と言いたくなるような登場人物達に今回も見入ってします。
「朽ちないサクラ」の主人公森口泉は県警広報課職員。職員なので警官ではない。美人だが友達の少ない不器用な27歳。高校の唯一の雑誌記者をしていた親友津村千佳が不審死を遂げたことから、事件の解決に踏み入るというストーリー。
親友の弔いを志し、独自で事件を追っている内に公安と刑事は同じ警察組織にあっても捜査協力はしない、という構図を知り、その関係性が今回の事件のカギを握っていることを唯一突き止める。
ここでは広報広聴課の課長の富樫隆幸という男と、捜査一課長と梶山浩介という二人が昭和のアウトローのような役柄で登場する。
事件は一旦解決したかと思うが、泉の推理に推理を重ねた考察によって最後の最後にとんでもない結末を迎える。
警察組織の闇を知った森口泉は、真の正義とは何か、日本に真の正義などあるのか、という疑問を探したいがゆえに、猛勉強の果てに正式な警官になる。
「月下のサクラ」は、森口泉が機動分析係を志望し、癖のある係長・黒瀬の強い推薦により配属されるところから物語ははじまる。
この泉の直属の上司である黒瀬という男が、今回の昭和臭がプンプンとするアウトロー的な柚月裕子さんの描写が光る登場人物だ。
昭和のアウトロー的な刑事は、「虎狼の血」からはじまり、まず規則に従わない。独自捜査で規律のギリギリか、時にそれを全く無視した捜査も厭わない。
柚月裕子描くアウトロー刑事はみな、煙草を吸う。しかし今の時代、どこもかしこも禁煙だらけゆえ、ニコチンを愛するそのような男たちは本来煙草をくゆらす場面でも、煙草を取り出しては周囲から「ここは禁煙ですよ」「もう止めればいいのに」と窘められる。
昭和と違い、今の時代はアウトローの男たちにはとても生き難いのだ。
そんな生き難い時代を、自分のスタンスを崩そうとせず、なんとか不自由しながらでも生きて行こうとする姿に哀愁を感じると共に、どこか愛着を覚える。
柚月裕子さんが描くアウトローたちは、荒々しく無骨だけど、どこかそんな愛らしさを感じるのは、柚月裕子さんが持つ男への優しさからではなかろうか。
不器用な男たちへ、常に「がんばれ~」とエールを送っている声が聞こえる。
小説のストーリー展開も全てとても緻密なプロットで進み、ラストも全ての伏線が生きる感動的な終結になるのも柚月裕子さんの知性を感じる。
男社会の男を大胆に魅力的に描き切る柚月裕子さんだけど、彼女のエッセーを読めばそこにはとても女性らしい淑女さしか見いだせない。このギャップがまた、柚月裕子さんの魅力でもあるのだ。
柚月裕子さんの小説、エッセーは必ず見るべし!