「ごめんなさいね、ボロちゃん・・・」
くみは同じ言葉をただひたすら言い続けた。
両の拳を力の限り握り締めボロは佇んでいた。
肩を震わせて両目からは大粒の涙が溢れてきた。
「わてを・・・わてだけを・・・愛してくれるはずだったのに・・・」
居たたまれずにくみはボロから目を逸らして背を向けた。
「うお~~~~~~ッ!!」
との怒鳴り声にくみは振り返った。
ボロの頬を伝わる表情がくみの眼前に迫ってきた。
それはまるでコマ送りの映画を見るようだった。
ボロはくみに走りながら上体を90度右に反転させた。
反転させると同時に、右腕をくの字に曲げてその腕をさらに90度背後に捻った。
くみは口を大きく開けたまま、ボロのその動作を見ていた。
くみに近づくにつれて、半回転させたボロの上体はまるでバネが戻されるように元に戻された。
くの字に曲げた右腕はやや下方からひねりをさらに加えられて前に迫り出してきた。
そのモーションはまるで往年の阪急ブレーブスのサブマリン山田久志を彷彿とさせるものだった。
秒速130kmで近づいてきたボロの拳は、くみの左顎を見事に捉えた。
その衝撃で小柄なくみの身体は後方、45度の角度で上空へとフワリと舞い上がった。
舞い上がったくみの身体は見事な放物線を描き、背面跳びの態勢で夜空をスローモーションで弧を描いた。
そしてぐしゃという鈍い音と共にくみの身体は後頭部から地面に叩きつけられた。
地面に落ちた衝撃でくみの身体は痙攣が3度起こった。