at23:00

訪ねてきた女

女性雑誌のアンケート取材に応じた男。訪ねて来た編集者はとびきりの美人。取材内容は「女性の整形」。男の過去が次第に紐解かれていくと・・・

※このドラマは音声で聞くことが出来ます。
https://ushioda-masaaki.com/mp3/tazunetekita-onna.mp3?_=1

取材

S E ドアの開閉の音

男性客  :どうぞ、入ってください。

マスター :いらっしゃいませ。

女性客  :ほんと、いいお店ですね。

男性客  :マスター、こちら女性ライターの本間百合さん。

マスター :始めまして。

男性客  :まずは飲み物を頼みましょう。何になさります?

女性客  :モスコー・ミュール、お願いします。

男性客  :俺はマンハッタンください。

マスター :かしこまりました。

S E ドリンクを作る音

男性客  :(嬉しそうに)マスター、今日さ俺取材されちゃって。生まれて始めて、1度されたかったんだ。

マスター :何を取材されましたか?

男性客  :まあ一般的な男の恋愛感から、交遊関係、遊び、趣味とかほら、よく女性雑誌にあるでしょ、男はこう思ってますよっていうアレ。

マスター :お待たせしました。

女性客  :ありがとう。

男性客  :でも、俺みたいに取材される男ってどうやって選ぶの?

女性客  :それはまた別の人が選ぶのでよく知りませんけど、たぶんランダムに選ぶのだと思います。

男性客  :そうか、じゃ俺はラッキーだ。

女性客  :取材させてもらってそんなに喜んでいただくなんて・・・

男性客  :取材もそうだけど、本間さんみたいな美人に知り会えて。

女性客  :あら、そんな・・・

男性客  :ご結婚は?

女性客  :まだです。

男性客  :いよいよラッキーだ。

思い出話

女性客  :さっき学校名もお聞きしましたけど。

男性客  :ええ。

女性客  :北須磨高校だと、夏田圭子さんはご存知ないですか?

男性客  :ああ、彼女なら小学校から一緒でした。本間さんもご存知なんですか?

女性客  :大学の時一緒だったんです。

男性客  :そうですか。彼女今何してるんですか?

女性客  :卒業後、私も会ってないんです。

男性客  :そうなんですか?

女性客  :小さい頃の彼女ってどんな子でしたか?

男性客  :そうだな、小さい頃はナッちゃんで通っててよく遊んだりしたなあ。作文がすごく上手かった。俺なんか何書いたらいいのか首かしげてる横で、スラスラ書いてた。

女性客  :そう。

男性客  :でも彼女よくいじめられてた。ほら、小さい頃って、人の欠点をあからさまに言うじゃない。

女性客  :そうね。

男性客  :彼女、なんて言うかお世辞にもかわいくなかったんだ、顔が。それと・・・
女性客  :それと?

男性客  :うん・・・顔にアザがあったんだ。知ってるだろ。

女性客  :ええ・・・

男性客  :だから、男の子達にオバケってからかわれて、よく泣かされてた。今から思えば、子供の頃って残酷だよな。

女性客  :イジメを助けてあげなかったのですか?

男性客  :可哀相に思ったけど、そんな事したら変に思われるかもしれないし、逆に俺がイジメられるかもしれないと・・・弱虫だったんだ。学年が上がるにつれて、そんな酷いことはなくなったけど、顔のアザの事をやっぱり気にしてたんだと思う。みんなから離れて、孤立することが多かった。いわゆるクライ感じになってしまった。

整形美容

女性客  :やっぱり男性って女性はきれいな方が好きですよね。

男性客  :そりゃ・・・そうかなやっぱり。

女性客  :私実は今、整形美容をした人についての本書いてるんです。

男性客  :へえ。

女性客  :資料もってるんで、ご意見聞かせてください。

S E バッグから資料を取り出す。

女性客  :どうぞ。

男性客  :(吃驚)え!これが同じ人!?

女性客  :そうですよ。

男性客  :全然別人じゃないですか。すごいもんだ、最近の技術は。

女性客  :最近はコストも安くなり、希望者が急増してるんです。

男性客  :すごい変わりようだな、この写真の人なんか知合いもきっと判らないだろ。見てよ、マスター。

マスター :これほど生き生きしてるのは、やっぱり自分のコンプレックスを克服したからでしょうか。

女性客  :そうです。それとそうなると周囲の自分に対しての対応が驚くほどかわったと、特に男性からの・・・

男性客  :わかるなあ、やっぱり男ってかわいい子には弱いから。職場でも知らないうちについついえこひいきしてるよなあ。

女性客  :それで人生がよい方に変わるなら、整形手術は有効なものだと思うんです。だからコンプレックスで悩んでいる女性に、勇気と正しい知識がつくような本にできたらいいと思ってます。

男性客  :なるほど。美への先導者か。

イジメ

男性客  :でもきれいな人でも、性格の悪い人っていますよね。

女性客  :はい。そういう人は子供の頃からかわいいと言われて、ちやほや育ったからだと思います。要はわがままで、他人の痛みや傷がわからない人。

男性客  :なるほど。

女性客  :逆にきれいな人で優しい人は、心に余裕があるんですね。他人が親切にしてくれるから、私も優しくしてあげようと。

男性客  :本間さんがそうですよね、美人で優しい。

女性客  :いえ、私なんか全然ダメです。そう心がけはしてますけど、その時の気分で相手に思いやりの気持ちが欠ける時があります。

男性客  :性格形成にやっぱり外見は関係あるんですね。

女性客  :それだけとは言えませんが、影響はあると思います。なっちゃんも、顔のアザがなければもっと積極的な性格の子になっていたでしょう。

男性客  :そうだなあ。でもなっちゃんは性格は悪くなかった。言えば優しい子だった。

女性客  :(ちょっと驚いて)そうなんですか?

男性客  :本間さんも知ってるでしょ。

女性客  :え、ええ。

男性客  :小学校の周りにノラ犬がいて、いつも給食をわざと残して犬にやっていたり。一人教室の花に水をやってたりして。

女性客  :そんなこと知ってたのですか。

男性客  :うん。だからさっき言ったように、みんながイジメるのについていただけだから。本当はかわいそうに思ってた。助けてあげたかったけど勇気がなかったんだ・・・どうかしました、本間さん?

女性客  :いいえ。マスター、おかわり貰えますか。

成形美容

S E ドリンクをつぐ音

マスター :おまたせしました。

女性客  :ありがとう。なっちゃんよく言ってました。

男性客  :なんて?

女性客  :小学校の時、よく顔のことでイジメられたけど、好きな人にイジメられたのが一番悲しかったって。

男性客  :まさか俺のことじゃないでしょ。

女性客  :それは判りませんが、イジメた方は時がたてば忘れてしまう事でも、イジメられた方は案外覚えているものですから。

男性客  :言訳じゃないけど、彼女をイジメた事は妙に記憶に残って随分反省したんだ。自分の勇気のなさを。だからもし、これからなっちゃんに会うことが偶然にもあったら、当時の事を謝ろうって思ってる。

女性客  :・・・

男性客  :なんかなっちゃんの話ばかりになりましたね。

女性客  :いいじゃないですか。今のこと私もなっちゃんに会えば、伝えておきます。きっと喜びますよ。

男性客  :そうしてください。案外本間さんの書く本をなっちゃんが読んで、整形を考えたりして。

女性客  :そうですね。

男性客  :待てよ、もうしてるかも・・・俺なんか会っても判らないほどの美人に。

女性客  :そうですね・・・。

男性客  :本間さん・・・

女性客  :はい。

男性客  :1つだけ聞いてもいいですか?

女性客  :なんでしょう?

男性客  :(聞きにくそうに)うーん・・・やっぱりいいですよ。

女性客  :私が整形をしたのかってでしょう。

訪ねて来た女

男性客  :そうです。やっぱりそういうの聞くことって失礼ですか?

女性客  :人にもよると思いますけど。わたしは・・・やっぱり内緒にしておきます。

男性客  :(残念そうに)そうですか。

女性客  :あ、もうこんな時間。仕事の電話が入りますのでそろそろ失礼します。本当に今日はご協力ありがとうございました。

男性客  :送りましょう。

女性客  :大丈夫です。それともし聞き漏れた事思い出したら電話してもいいですか?

男性客  :ええ、でもうちの部署には秋山は二人いますから・・・

女性客  :秋山努さんと言えばいいですね。

男性客  :(驚いたように)あ、ああ・・・

女性客  :それではここで。マスター、ごちそうさまでした。

マスター :ありがとうございました。

S E ドアの開閉の音

マスター :お送りしなくてよろしかったのですか?

男性客  :・・・

マスター :どうかされましたか?

男性客  :彼女、俺の名前を知っていた・・・

マスター :お名刺を渡したのでは?

男性客  :うん。渡したけど、それは秋山努という名前じゃない。

マスター :違うのですか?

男性客  :努は23歳まで使っていたけど、姓名判断でかえる方がいいと言われたのでかえたんだ。

マスター :それじゃ・・・

男性客  :努という名前を知ってるのは学生までの友人・・・

マスター :彼女は・・・

男性客  :どう思います、マスターは。

マスター :お話しの中の、女性?

男性客  :でも本間百合と・・・

マスター :執筆される方はペンネームをつかわれます。

男性客  :じゃなんで俺に会いに来たんだろう?

マスター :(ちょっと間をおいて)それは、確かめたかったからではないでしょうか?

男性客  :なにを?

マスター :小さい頃イジメを受けて、自分が好きだった人が本当に悪意を持ってしたことなのか?

男性客  :そうか・・・

マスター :でも、答えを見つけて彼女、嬉しそうに帰って行きましたね。

おわり

「訪ねてきた女」
Story by ushi

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