たいくつなお見合いの時間を過ごしてる真紀。その時違う席の青年が真紀の目の前で、いきなりストローをスカーフに変えた。そしてニッコリほほ笑む青年。そこからはじまる二人のラブ・マジック・・・
キャスト紹介
男・内片智也(29才)・・・マジシャン。好きな人には率直に自分の気持ちを伝えるというタイプ。
女・上田真紀(28才)・・・銀行勤め。明るくユーモアもある。
○ ホテル・ロビー
男 :やあ、来てくれたんだね。
女 :来ないと思ってた?
男 :さあ、分からないから待つ間が楽しかった。
女 :変な人。
男 :よく言われるよ。
女 :始めまして、私は上田真紀です。
男 :内片智也です。さっき君達がいたテーブルへ座ろうか?
女 :ええ。
男 :ほんの6時間程前に君はここでお見合いをしてたんだ。
女 :そうよ。
男 :どうしてお見合いって、ホテルのロビー喫茶が多いんだろう?
女 :待合せに便利で、体裁がいいからじゃない。
男 :ふうん。もう何回もしたの?
女 :数えるほどよ。
男 :でもまだお見合いなんかする年でもないだろう。
女 :そうでもないけど、親戚の叔母さんで世話好きな人がいるの。
男 :ああ分かるよ。誰かと誰かを引き合わせるのが趣味で、なんかそれを生きがいにしてる人。
女 :そんな感じ。でも驚いたわ、さっきは。
男 :(嬉しそうに)ほんと?
女 :だって、突然ストローをスカーフに変えるんだもん。
男 :見てたら君はあまりにも退屈そうだったから。
女 :そう見えた?
男 :何回も欠伸をかみ殺してた。
女 :そんなところまで見てたの?
男 :君の相手はたいそう君の事を気に入ってたみたいだよ。あの後二人でどこへ行ったの?
女 :月並みな食事と月並みな会話をしてきただけよ。食事の時ハンカチを取出そうとしたら、あなたからのメッセージを見つけたのよ。いつの間にバッグに入れたの?
男 :君が3回目の欠伸をかみ殺したとき。
女 :どうやって?
男 :僕はマジシャン。
女 :ほんとに?
男 :その君のハンカチを貸してみて・・・ありがとう。いいかい、こうやって僕の右手に掛けるだろ。ワン・ツー・スリーッ!
女 :あッ! 真っ赤なバラ。
男 :どうぞ、お近付きの印に。
女 :ありがとう。
○ 銀行
女 :いらっしゃいませ・・・あら。
男 :こんにちわ。制服着ると雰囲気変わるね。
女 :あなたのマジックほどじゃないわ。
男 :こんな近くの銀行の窓口にいたんだ。
女 :ご預金でしょうか?
男 :そうだな、引き出すよ。
女 :でしたらその用紙にご記入してもらえますか?
男 :OK。(書く)はい。
女 :どうも・・・ん? 今晩あなたを引き出せますか?7時に?ちょっと・・・消えた・・・
○ レストラン
男 :美味しい?
女 :ええ、とっても。それに夜景がとってもきれいだわ。
男 :よかった。
女 :今日はもう手品見せてくれないの?
男 :そのうちその料理からカエルの足が出てきたりして。
女 :キャーッ!
男 :冗談だよ。
女 :もうッ!
男・女:(笑う)
男 :この間のお見合いの人はどうしたの?
女 :うん・・・ちょっとお付合いしてみようかなって思ってる。
男 :(ちょっと落胆)そうなの?
女 :うん・・・ちょっとくらいお付合いしてみないと相手のこと何もわからないし・・・
男 :好きなんだ。
女 :好きになるかどうか、付合ってみるのよ。
男 :ふーん・・・
女 :あなただってそうでしょう?
男 :僕は直感で好きになるな。
女 :直感で?
男 :そう。始めてあった人でも、その人のちょっとしたしたしぐさで、例えば笑い方だとか、カップの持ち方だとか・・・そう、欠伸を我慢する様子だとか・・・
女 :・・・そうなの?
男 :でも大抵そのインスピレーションは当たってるよ。
女 :ふーん。
男 :僕の言いたいこと、わかるだろ?
女 :(戸惑って)でも、あなたの事まだ何も知らないわ。
男 :僕はね・・・マジシャン。
女 :(笑って)それだけだもの。
男 :何が知りたいの?
女 :え?
男 :君は好きになる人を何で選ぶの?
女 :(意表を突かれて)え?
男 :その人の職業、会社での地位、性格、学歴、もっと違うモノ?
女 :そうね、そのすべてかしら。
男 :でもその多くの物は変わっていくよ。もっとその人の本質を見なくっちゃ・・・
女 :本質?
男 :うん。
女 :どうすればいいのかしら?
男 :簡単だよ。自分の直感に頼ればいいのさ。
女 :難しいわね。
男 :簡単だって言ったろ。偏見を持たずに自然とその人を見ればいいのさ。
女 :自然に?
男 :そう、自然に・・・
(B・G・M)
○ デパート
S E 店内放送など
女 :そうね、こっちの熊のプリントの入った服と、靴下はこれ、帽子はそのフサフサがついてるのを。のし紙には出産お祝いとしておいて下さい・・・(何かに気付いた様に)あら・・・
男 :さあ、いいかいちびっこ諸君。これが最後の手品だよ。よーく見て帰ってね。ほーらこの箱、何もないでしょ。ところがこのハンカチで蓋をするとー、何が出るかなー、オバケかもしれないぞー、でも大丈夫。この通り、ドラエモンでしたー。
S E まばらな拍手
男 :さあ、みんなおかあさんのところへ帰って。きっと探してるゾ。迷子になるなよ。バイバイ・・・
S E 拍手が一つ近寄って来る
女 :お疲れ様。
男 :君か・・・
女 :ここがあなたのステージだったのね。わたしの銀行の向いじゃない。
男 :そう、ここで毎日ショーをしてるんだ。
女 :手品グッズを実演するお兄さん。
男 :タネがバレちゃったか。
女 :ええ、しっかりとね。
男 :買物かい?
女 :ええ、友達の出産お祝いを買いに来たの。
男 :そう。
女 :子供が好きなのね?
男 :まあ。
女 :とても優しい目をしてたわ。
男 :そうかな。
女 :この間あなた、教えてくれたわよね。
男 :何を?
女 :人を好きになるのは、自分の直感を信じろって。
男 :(思い出した様に)ああ・・・
女 :なんとなく判ったような気がするわ。
男 :どんな風に?
女 :あなたが子供達を相手に手品をしているの見たら・・・この人は本当に優しい人なんだって。
男 :照れるな。
女 :わたしも自分の直感を信じることにするわ。
男 :じゃあ・・・
女 :私にも優しくしてくれますか?
男 :・・・左手をかしてみて・・・ワン・ツー・スリー!
女 :ああ! かわいいビーズの指輪。
男 :このマジックはちょっと時間が掛かるんだ。本物の婚約指輪に変わるまでは・・・
おわり
「ラブ・マジック」
Story by ushi