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もう友達じゃない

高校2年生の潤と麻美は、友達という垣根をとるために四国旅行に出ることにした。あまりの楽しい時間に、麻美は逆に不安にかられる。二人の将来へタイムカプセルを作ることを麻美は提案した・・・

キャスト

男・正木 潤(17才)・・・高校2年生。明るく快活。素直に麻美の事を想っている。
女・吉田麻美(17才)・・・高校2年生。潤とは同じ高校生。潤の事を好きだが現実的。 

S E 小鳥のさえずりなど朝の雰囲気

男  :うー、さみぃー!

女  :(駆けてくる感じで)遅くなってごめーん。待った?

男  :いや、それよりなに持ってきたの、そんなに?

女  :色々考えてたらこうなちゃったのよ。それよりあったかいコーヒーでも飲もうよ。

男  :いいね、賛成。

S E カップとスプーンが触合う音

男  :(ホッと)生き返ったァー

女  :まだ暗いのね、朝の6時って。

男  :でもこんな早い時間でなくてもよかったんじゃないか、出発?

女  :怒ってるの?

男  :いやそうじゃないけど。

女  :潤と行けるこの旅行を少しでも長くしたかったの。

男  :そうだな。

S E プラットホームの喧噪、アナウンスなど

男N :彼女の名前は吉田麻美。同じ高校の2年生。彼女と付合い出して半年が過ぎるだろうか。僕達は2ヵ月前から今度の旅行を計画した。 二人のバイトで費用を稼ぎ、親にはクラブの自己合宿という名目で許しをもらった。もちろん麻美も色々苦労したみたいだ。だからその分余計に今日の日が待ち遠しかった・・・

女  :あ、またトンネル。景色が見たいのにトンネルばかり・・・あ、出た出た、見て牛がいる、ほら潤(と無邪気に笑う)

男N :麻美はまるで子供の様にはしゃいでた。僕も気持ちは一緒だった。修学旅行なんかよりずっと楽しい。そりゃそうだ、コースも自分達で決め、好きな女の子とずっと一緒にいられりゃ・・

女  :岡山で乗り換えでしょ?

男  :ああ、在来線で瀬戸大橋を渡って坂出まで。あとは直通バス。

S E 遊園地での子供のはしゃぐ声など

男N :目的地のレオマワールドに着いたのはまだ昼前だった。まるでおとぎの国のような園内で僕達は子供のように遊び回った。色々趣向を凝らしたテーマパーク、疑似体験で宇宙旅行を体験し、中近東の遺跡を再現したテーマゾーンではオリエンタルトリップを楽しんだ。二人の楽しい時間はあっと言う間に過ぎた。

女  :楽しかったね。

男  :うん。

女  :ほんと来てよかったね。

男  :そうだな。

女  :見てよ、いろんな所がライトアップされて、あんなにきれい!

男  :ほんとだ。

男N :夕闇に染まるこの夢の世界に僕と麻美は完全に現実世界を忘れていた。そしてこの頃から僕は、次第にそわそわしだしていた。

女  :暗くなると急に寒くなってきたね。

男  :そうだな。

女  :もうそろそろホテルに入る?

男  :え、ああ、(ぎこちなく)そうだな。

男N :麻美の言葉に僕はドキッとした。まあ、最初から判っていることだけど、でもどうして麻美はあんなあっさりと言えるのだろう・・・ ホテルは園内にあるリゾートホテルを予約しておいたが、チェックインの時には冷や汗が出たもんだ。宿泊者名簿というのをいきなり書かされたからだ。僕が記入項目におろおろしてるのを麻美が助けてくれた。年をお互い21才に、同伴者の欄には自分の名前だけを素早く書いてニッコリ笑ってフロント係に渡していた・・・

男  :食事、結構旨かったよな。

女  :うん。

男  :その浴衣、結構似合ってるよ。

女  :・・・うん。

男N :麻美はベッドに腰かけたまま、急に無口になった。とうとうこの時が来たなって感じで、僕もドキドキしてきた。

男  :麻美、本当に・・・

女  :うん・・・

男  :嫌なら・・・

女  :ううん、私の気持ちは変わってないから・・・

男  :麻美・・・

女  :そのための旅行じゃない、始めから。友達同士の垣根をこえようって、二人で計画した・・・

男  :ああ・・・

女  :手を握って・・・

男  :うん・・・

女  :汗かいてるわ潤。

男  :正直言って、ドキドキしてるんだ、俺。

女  :判るわ、私もよ。

男  :俺・・・

女  :どうしたの?

男  :初めてだから、その、上手くリードできるかなって・・・

女  :私もよ。

男  :そうか・・・上手く出来るかどうか判らないけど、これだけは確かだよ。

女  :なに?

男  :今夜は俺にとって、一番の思い出になるよ。

女  :私もよ・・・

(B・G・M)

男N :次の朝、麻美の顔を見るのが照れくさいような嬉しいような、なんだか複雑な気分だった。でも、二人の距離は間違いなくグッと近付いた感じは確かだった。手をつなぐ動作もこれまでになく自然に、ごく当たり前になった。たった一晩で・・・

女  :もう私達、友達だけの関係じゃないよね。

男N :麻美は何度となくこの言葉を呟いていた。そうだ、僕達は友達という垣根を一歩飛び越えた。恋人という関係?

男  :どうしたんだよ、麻美?

女  :私、嬉しいのよ・・・

男  :じゃどうしてそんな顔してんだ?

女  :嬉しすぎて怖いのよ・・・

男  :どうして?

女  :いつかはこの関係も終わるのかなって・・・

男  :どうしてそんな事言うんだい。麻美は悲観的すぎるんじゃないのか?

女  :そうかもしれないけど、初めての人とそのまま結ばれるのって、そうないじゃない?

男  :確かに先のことは判らないけど、そんな事気にしすぎても意味ないじゃないか。

女  :それもそうね。ねえ潤?

男  :うん?

女  :タイムカプセルを作らない。

男  :タイムカプセル?

女  :そう、今の歓びをメッセージに書いて残しておくの。十年後へ。

男  :十年後!

女  :十年後にそのタイムカプセルを開けるの。そうすれば今日の歓びを思い返すことが出来ると思うの。

男  :十年後か・・・

男N :僕は彼女の提案に賛成して、その場で二人でタイムカプセルを作った。十年後の麻美へ宛てて書いたメッセージと二人の写真を空缶に入れて、丈夫に密閉して大きな木の根元へ埋めた。

男  :これを掘り返す時はお互い27才か?

女  :そうね。出来たら二人で開けたいね。

男  :当たり前じゃないか、俺達は何があっても別れるもんか。

女  :そうね・・・

男N :十年後?そんなことは今は分からないさ・・・

女  :ねえ、このこんぴらさんの石段何段あるか知ってる?

男  :知らない。

女  :門までが365段あるんだって。

男  :数えてみるか?

女  :階段を上る度にご利益があるんだって。

男  :へー!

女  :一気に上っちゃおう!

男  :お、おい待てよ、麻美!

男N :そう、今分かってることは麻美を一番愛してるってこと、それだけで十分・・・

おわり

さてさて、潤と麻美は無事結ばれたのでしょうか?
二人がお互いに宛てたタイムカプセルのメッセージは?

※この二人の十年後のドラマはこちらにあります。
 >>> “Ten Years After”

ちょっと想像してから読んでみてくださいな(^^)

「もう友達じゃない」
Story by ushi

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